空に歌えば――平和・人権・環境(12)

第九で第九条パレード
   あきもとゆみこ


 

 あきもとゆみこは、第九のメロディで日本国憲法第九条を唄っている。一人で唄うだけではもったいないので、毎月一回(主に第一土曜日)、仲間と一緒に大阪・御堂筋をパレードしている。
「第九で第九条を唄う?」。いったいどんな唄なのか。どんな意味があるのか。あきもとは次のように説明する。
 「ベートーベンの交響曲第九番の『歓喜の歌』のメロディに憲法第九条の条文をのせて唄います。『戦争はしません』と戦争放棄を掲げたのが、憲法第九条です。世界的にもとても貴重な平和憲法なのです。 だけど、与党の自民党新憲法草案は、憲法第九条二項を変えて、自衛隊を自衛軍に変えて、戦争ができる国にしようとしています。軍隊になるということは『人を殺せる』ということなのです! 世界第四位の軍事費をもつ自衛隊でも、今まで人ひとり殺すことがなかったのは、第九条が歯止めになってくれたからなのです」。
 平和憲法を持っているのに、政府は戦争へ、戦争へとひた走る。米軍に給油して、人殺しに加担している。それでも自衛隊は戦争をしないと思っていたら、最近は危うくなってきた。戦争したい、軍隊になりたいと盛んにアピールして、インド洋やイラクにまで出かけている。アフガニスタンやイラクで民衆を殺している米軍に協力している。防衛庁は「防衛省」に格上げされた。
「みんなに第九条の大切さを知ってほしくて、『第九で九条』を唄っているんです。 憲法改正のための国民投票発議までの三年間は、御堂筋で『第九で九条』を唄い続けたいと思います。誰もが知っている第九のメロディに第九条をのせたこの歌を唄えば、第九条がまるまる覚えられます。この歌が、全国に広がることを願っています。憲法や第九条というと敬遠しがちな人は、平和集会にはなかなか来てくれません。 だけどパレードは、直接アピールするので効果的だと思います。国民投票に影響できるぐらい大きなピースパレードができたらと思います。皆さんといっしょに創っていけたら・・・そんな夢を持ちたいですね」。
 あきもとゆみこは、大阪府出身の絵描きだ。ミナミの街で、ある放浪画家と出会ったのがきっかけで似顔絵師になった。流しのギター弾きならぬ「流しの似顔絵描き」としても活動歴がある。パワフルな浪速っ子キャラの持ち主として知られる。
 平和問題について積極的に発言するようになったのは、一九九一年の湾岸戦争からだが、今回のイラク戦争に際して、「第九で九条」を発案し、各地で歌うようになった。
「似顔絵師」にして、「似らすとれーしょん教室講師」であり、イラストレータである。ウェブサイトには、似らすとれーしょんが掲載されている。弾ボール似らすと、リップルボード似らすと、切り絵似らすと、リアル似らすとなど新機軸が満載だ。
 漫画やイラストでも平和を訴えて、湾岸戦争時につくったキャラクター「ピースケのページ」も続けている。「第九で九条」だけでなく「星に願いを」の替え歌もつくった。

きらきら星に 願いを込めて
世界が平和になるように
あなたに私 みんなの心 
やさしさ放とう この世界へ
ひとりひとりの 心の闇を照らそうよ 
やさしさ放とう 心暖む 
願いを持てば 平和になる

「もっとこの憲法を具体的に使うことに取り組んでいけば、平和は創っていけます。例えば、防衛省や国防省で軍備を使う発想ばかりされているけれど、徹底対話による平和省を世界各国に作る国際プロジェクトがあります。日本でも平和省を創る運動が始まっています。また、紛争地帯に軍備を使わず、非暴力で紛争を未然に防ぐ活動をする非暴力平和隊が活躍しています。平和学という学問も確立されていますから、これを義務教育に取り入れていくことも考えられます。それに、現在、戦争に協力しない平和地域(無防備地域)の署名運動が、日本各地の市町村で行われています」。
 あきもとは、無防備地域運動の漫画も描いた。『マンガ無防備マンが行く!』(同時代社)だ。
無防備マンは、普段はサラリーマンという、白髪の中年ヒーローだ。地球のどこかで戦争が起こると、無防備マンに変身して平和活動を行う。空飛ぶ能力を持っているのだ。一方、タロウは、ごくごく当たり前の中学生。無防備マンは、タロウに無防備地域について語る。無防備地域の意義を教えるために、タロウを HYPERLINK "http://www.weblio.jp/content/%E6%B2%96%E7%B8%84" \o "沖縄" 沖縄へ連れて行く。タロウは沖縄戦の歴史を学び、軍隊では平和をつくれないことを確信し、無防備の意義を考える。読みやすく、わかりやすい無防備運動入門だ。
 無防備地域運動は、二〇〇四年春の大阪市に始まって二〇〇七年秋の札幌市にいたるまで、全国二一自治体で取り組まれた。憲法第九条は本来、無防備国家宣言であるから、自治体で憲法第九条の精神を活かすために、無防備平和条例をつくる運動だ。条例制定は実現していないが、運動は各地に広がっている。
 無防備地域運動は、世界各地のピースゾーン運動の日本版だ。フィリピンでは「ピース・サンクチュアリ」運動が広がっている。北欧のオーランド(フィンランド領)は住民の努力で非武装を維持している。他方、イラクでも非暴力で平和を取り戻そうという運動がある。ニューヨークを非武装地帯にしようという運動も始まった。無防備運動の仲間が世界にいる。
 あきもとは「九九九九人の第九」をめざしている。「肩肘をはらずに、みんなで平和を考えるきっかけになれば」という思いから、クリスマス・イヴの一二月二四日、九九九九人の参加者を募って「第九で九条」を歌うパレードやカウントダウン・ライブコンサートを実現したいという。本格的なオーケストラでできればいいなと思う。今年のパレードは一二月二四日午後二時、大阪・新町北公園(厚生年金会館前)集合だ。

ウェブサイト
 「あきもとゆみこのギャラリー」
「ピースケのページ」
「まんが『無防備マン』が行く!

マスコミ市民2007年12月