空に歌えば――平和・人権・環境(11)

明日はきっと・・・晴れ
      井上ともやす


元山(ウォンサン)の港 別れの雨に
濡れながら手を振る 北の人達
「泣いちゃダメだよ!」「笑いなさい!」と
傘もささずいつまでも手を振って

三八度に引き裂いたのは
僕等がいつか犯した傷跡さ
深く刺さったそのはずなのに
ずぶ濡れでいつまでも見送ってくれた

遠い日のこと 遠い人のこと
そうやってすべて忘れられていく
今思い出そう 今見つめよう
そこから始まる新しい出会い

アンニョンハセヨ カムサハムニダ
お互いのこともっと知りたいね
アンニョンハセヨ カムサハムニダ
こんにちは そして ありがとう




 二〇〇〇年に「ピースボート」企画の旅で朝鮮を訪問した井上ともやすは、帰りの船中コンサートで、できたての「アンニョンハセヨ カムサハムニダ」を歌った。
ぼくらは朝鮮のことを知りもしないで、マスコミが伝えるおどろおどろしいイメージだけで語っていないだろうか。人が人に勝手に線を引いて、向こうとこちらの溝をつくっていないだろうか。日本と朝鮮半島の歴史の上に今の現実があるのだから、朝鮮の人々と直接出あって、正面から向き合って話すべきではないのか。
 「二〇〇〇年八月、僕は自分の目で確かめようと北朝鮮を訪れた。そこで出会った人たちは、まっすぐな瞳に澄んだ光を讃えていた。日本が忘れていった礼節や、懐かしい暖かさや親しみがあった。ともに語り、笑い、友情を育んだ。帰りの元山港では、涙を流しながらも互いに希望を刻んだ。あらゆるものを超えてゆけるもの・・・友情。すべてはここから開かれていく。」
帰国した井上は、「アンニョンハセヨ カムサハムニダ」を「明日はきっと晴れ」とカップリングでCDを完成させた。「明日はきっと晴れ」では、「この世に生れ落ち 違う国で育ち 生きる意味を探し続けて ばらばらに分かれて この星が産んだ命の行き先は 母なる大地さえ砕く 黒い雨の中」と始めて、「黒い雨の先に青空は隠れてる 虹をつかめ 駆け抜けていけ 明日はきっと晴れ」と歌う。
 井上ともやすは、千葉県市川市在住で主に首都圏で活躍している。
 一五歳の時に吉田拓郎に影響をうけてギターを始めた。拓郎をはじめとするフォークソングを聞きまくり、佐野元春も大好きだった。そして、イーグルスやブルース・スプリングスティーンにはまり、ミュージシャンとしての自己を形成してきた。
 一九九九年、日本語ブルーグラスの「チーフ井上とフォークゲリラボーイズ」で「一〇〇万回愛してる!!」をリリース。二〇〇一年には、沖縄系ユニット「nachi-boo」で「あん美(ちゅ)らさ」、二〇〇二年にセカンド「夏の夜はカチャーシー」を発売した。日本のフォークソングやアメリカのブルースとともに、沖縄音楽にも大きな影響を受けた。
 ソロ活動では、二〇〇二年七月に初のソロシングル「水の詩」をリリース。次いで、二〇〇四年四月、今この時だからこそ伝えたいという思いで「アンニョンハセヨ カムサハムニダ」をリリースした。二〇〇六年二月にはシングル第三弾「どこへ行くアメリカ」を発表している。
 他方、二〇〇四年に、イトチンとコンビで沖縄ユニット「わらぶー」を結成した。大爆笑、大爆発の「わらぶー」の初CDは「わらぶー音楽図鑑」だ。
 井上は、一九九二年から、上野水上音楽堂で「アコースティック・ボイス(アコボ)」というイベントを主催してきた。「歌」にこだわったアコースティック系のバンド、ミュージシャンが集まる「手作り」の野外ステージだ。当初は年に二回のこともあったが、ほぼ毎年一回開いている。また、二〇〇五年の第一八回からはライブハウス「四谷天窓」が参入して共同企画となっている。
 二〇〇七年九月一日には、第二〇回のアコボを成功させた。参集したのは、だいじゅ、ナミゴコチ、さとうもとき、いいくぼさおり、塩川昇、成底ゆう子、MINAMI、きんばらしげゆき、須藤もん、たがみ☆とよだ、石井昭夫、Tag、ホイドーズ、そして井上ともやすバンドだ。水上音楽堂に「心の歌」が響き渡った。
 「九・一一」は井上に衝撃を与えた。イーグルスやブルース・スプリングスティーンに憧れ、アメリカのブルースに学んできた井上だが、アメリカの影も意識してきた。ずっとアメリカの影と光の正体に気づいていたはずだ。「九・一一」はその影の意味を見定める作業を余儀なくさせた。アメリカを受け止め、アメリカに挑戦する必要があった。
 「九月一一日、テレビの前で言葉を失った。あの日から、いやずっと前からアメリカという国のエネルギーが、この星を悲しくさせている気がする。大好きなロック、フォークで自分を育ててくれたアメリカだけど・・・。僕らの生活にどっぷりと腰を下ろしているアメリカなのに・・・。今一度、アメリカというでっかい国に語りかけたい。」

二〇〇一年九月一一日 テレビの画面は戦争だった
「これは映画だろう!?」と何度も信じようとしたが 
憎しみのエネルギーが全てを蝕んでいた
真っ二つに崩れ落ちる貿易センタービル 
血まみれの泣き声が「私の神よ!」と叫ぶ
「絶対屈しない」「絶対負けない」ブッシュさん
その前にやられた理由は何ですか?
アメリカがきっと欲しがってる「石油」 その国に自衛隊を送り
黄色いテープで別れを告げる家族の涙は
まるでいつかの白黒フィルム
あれから地球は憎しみの星になり 
黒い空気の固まりが誰もの胸に吸い込まれている
貧しい顔した政治家達が安っぽく命を語る
かつて親父が俺の頬を叩いた その痛みで色んな事を知った
人間は悲しいね・・

アメリカが少しずつ世界中で曇ってきた 
「自由!自由!自由!」と声高に叫ぶ
片手に銃を握りしめながら・・

どこへ行くアメリカ どこへ行くアメリカ
どこへ行くアメリカ どこへ行くアメリカ
どこへ行くアメリカ どこへ行く!? どこへ行く!?
War Is Over  War Is Over
War Is Over  War Is Over

 「大好きなアメリカ」と言い続けるために、井上は「どこへ行くアメリカ」と問い続ける。

 

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水の詩
                作詞・作曲 井上ともやす

 

はじまりは灼熱の火が 大地を赤く染めて
天に昇りゆく風が 雨のつぶてを投げた
白い砂が流れて 命の種を運ぶ
すべては廻り 出会いのなかで 水のまちが生まれた

悠久のときのなか 育まれた水の詩
生きとし生けるもの 抱く命 水の詩

種はやがて林となり 深い緑の森へ
あなたと私が落合う 山は衣をつけた
白い砂の心で ふたりは愛し合った
すべては廻り 愛は実って 水のまちが栄えた

悠久のときのなか 育まれた水の詩
生きとし生けるもの 抱く命 水の詩

絶えることなく溢れだし あらゆる命を湛え
人は水と共に生きて 大地に足を下ろす
いつか死にゆくものよ 愛しい人との別れ
すべては廻り 出会いを越えて 人は水に還る

悠久のときのなか 育まれた水の詩
生きとし生けるもの 抱く命 水の詩

 

マスコミ市民2007年11月